今年21冊目。おススメ度★★★★☆
結論:「結果」を出す経営者にはやっぱり「原因」があった
著者の折口氏といえば、商社(日商岩井)出身の経営者で「ジュリアナ東京」「ヴェルファーレ」という超メジャーなディスコのプロデュースを手掛けた「時代の寵児」として、そして、グッドウィル・グループ設立以降は人材派遣ビジネスをベースに設立4年5カ月で株式を公開、株式公開で得た巨額の資金を売上数億円だったコムスンに投じ(子会社化)、介護ビジネスを短期間に軌道に乗せ歴代2番目のスピードで東証1部上場を果たした「やり手経営者」として知られています。
本書を読むまでは、総合商社出身で「でかいことをやる」ことが好きと公言し、ディスコをやったかと思えば、全く関連性のない介護に手を出す「派手な奴」というのが私の折口氏に対するイメージでしたが、見事に裏切られました。
まず、驚いたのは彼の幼少時代から大学生になるまでの彼の成長の軌跡です。父親は東京・大田区で人口甘味料(サッカリン、ズルチン)の生産会社を経営し、業界団体の長を20年以上にわたって務めるほどの実力者で、200坪の家にはお手伝いさんと高級外車付きという恵まれた家庭に著者は生まれ育ちます。そして、5歳のとき、父親がアメリカに出張に行ったときに撮ってきたディズニーランドの映像に強烈な衝撃を受け、以来大きなことをすることが「夢」になったそうです。
そんな裕福な日々もつかの間、10歳のとき、人口甘味料に発ガン性の疑いがあると発表され、父親の会社は業界もろとも、あっという間に倒産、生活保護を受ける生活に転落し、あげくの果てに両親が離婚する事態となります。
しかし、ここからが著者の「ただ者でない」ところ。悔しく、惨めな日々の中で「いつか力をつけ、大きなことをやってやる。絶対に勝ってやる。」と負の感情を起業の原点・エネルギーに変えたそうです。
中学生のときには、自分の生活費を捻出するため、土・日は身分を中学生と偽ってマクドナルドでアルバイト。高校進学に際しても、埼玉県で当時2番目の進学校であった熊谷高校に合格するも、経済的な事情から入学金・授業料が免除され、学びながら給料がもらえるとの理由で横須賀市の陸上自衛隊少年工科高校に入学。
そこで待っていたのは、不合理な命令や実弾を使った突撃訓練。ここでも「あのときの恐怖や辛さに比べれば、どんな苦境だって大したことはない」とその経験をその後の糧としています。
寮の消灯時間後、時には毛布にくるまりまがら受験勉強をして防衛大学校に進学。金銭的な事情とパイロットになりたかったため防衛大を選びますが、大学4年生のとき読んだナポレオン・ヒルの『成功哲学』をきっかけに「もっと発展性のある、でかい仕事をしてみたい」と思うようになり、商社マンを志望、日商岩井の人事課長に「私を採用すれば絶対、会社は儲かります。儲けさせる自信があります。」と直談判し見事内定を勝ち得たそうです。
その後は、東京・芝浦の倉庫会社のオーナーからの空き倉庫の有効活用の相談があったのをきっかけとして、瞬間的にひらめいたというディスコ(ジュリアナ東京)の企画に突っ走っています。
「毎日満員であること」がディスコの価値と本質をつかみ、最初は無料招待券も使う戦術が奏功し大成功を収めたのもつかの間、利権争いに敗れ、残ったのはピーク時7000万円に達した借金。町金融にも手を出すほど資金難に見舞われますが、2年以上走りまわった末にエイベックス、オリックスなどの協力のもと開業した世界最大級の超巨大ディスコ「ヴェルファーレ」がそれを救います。しかし、ここでまたしても資本の論理で社長から副社長に屈辱の降格をさせられ、最終的には辞表を提出するはめになっています。
この様に、順風満帆ではなく、むしろ波乱万丈の人生の軌跡を辿ってきた著者ですが、2つのディスコでの経験を踏まえ、グッドウィル・グループの急成長を導いた経営手腕は高く評価できます。
そうです、彼の成功(結果)は偶然ではなく、そこには「夢と志」、「技術と仕組み」、そして、「執念と鉄の意志」という裏づけ(原因)があればこそであることが、本書を読めば理解できます。以下、特に印象に残った点をあげたいと思います。
1 強いビジョンと欲望 でっかいことがしたい。大きくなって大きく社会貢献がしたい。そして、これが究極の自己満足、自己実現になっていく、との考えのもと、毎日毎日、「必ず自分は夢を実現するんだ」と念じ続け、止むことなく努力を続けることの大切さ。そして、何よりも自分は何がしたいのか、どうありたいのかが明確になっていることが重要だと深く感じました。
2 ものごとの「本質」を正確に捉える ある事業が成功するかどうか、それをボーリングに例えるならストライクを取ることであると著者は述べています。ストライクを取るためには、センターピン、つまり一番真ん中のピンを外してはならないという理論(「センターピン理論」)です。ディスコのセンターピンは「いつも大勢の人がいて、毎日盛り上がっていること」、介護サービスのそれは「居心地のよさ」であることをよく理解したからこその成功であることがよくわかりました。そして、当事者意識にこだわれば、ビジネス感覚は磨かれ、‘センターピン’を見抜くことができると著者は言います。
3 正しいことをする コムスンの事業スタート時には、厳しい批判や誤解、バッシングとも思えるような報道が多くなされました。でも、著者はまったく動じなかったそうです。なぜなら、自分は世の中にとって正しいこと、社会の役に立つことをしているという自信があったからです。
4 企業理念の重要性 「グッドウィル・グループ十訓」が経営陣、全従業員に浸透しており、決して「金儲けがすべて」の体質になっていないことが様々な雑音にも動じない体質を作っていると思われます。
グッドウィル・グループは2015年の連結売上高1兆円のサービスコングロマリット、複合企業のトップを目指し、「人材ビジネス」「健康ビジネス」に次ぐ新たな軸として「感動ビジネス」(レストラン事業の世界的な展開)を加え、力強く走り出しました。以上のとおり、様々な試練を糧にして、人並み外れた高い志と事業意欲を持って邁進する折口会長のもと、グッドウィル・グループはきっと成功するに違いない、そう感じざるをえません。
なお、本書のカバーには「ゼロから1400億円。東証1部上場企業を創った男の成功哲学」と書かれていますが、2007年6月期はクリスタル買収により売上高5500億円程度が見込まれています。